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2008年12月12日

奇跡のジャケット。その3

週が開け、修理屋さんへジャケットを持ち込みました。
修理する箇所を見せ、修理可能か聞きます。

眼光鋭くいろいろと見ている修理屋さん。
やはり、ぱっと縫えば済むというわけではなさそうです。

裏地をじっと見つめ、表についているワッペンを注意深く見た後に、これなら何とかできるかなあと一言。
ただし、このワッペンを一度はずさないと修理することが出来ないとおっしゃいます。
もちろん、修理した後は元通りに縫い付けるんです。

昔は、こういった作業のときに、ワッペンなどはずして、再度縫い付けるなんていうのは当たり前に行われていました。
この作業に文句を言う人は誰もいなかったんです。
所が、最近は必要な作業でも中には文句を言うお客様もいらっしゃいます。
元通りにつけるといっても、一度はずしたら元通りじゃないといったり、糸が違うといってみたり。
はずさないと出来ないと伝えても理解していただけないお客様もいらっしゃいます。

修理という作業の中に含まれるものですが、トラブル防止のため、お客様にはずす了承を頂きます。

お客様に連絡をし、ご来店くださったところで、説明をします。
修理が出来そうなこと、ワッペンをはずさないと出来ないこと、その了承、お値段の事などなど。
時間もかかりそうだと伝え、お預かりすることになりました。

翌日、すぐさま修理屋さんへ持ち込んでお願いします。
帰り際にこの前来たときの修理屋さんの反応をふと思い出したんです。
確かその時、縫い目を見て、なんか複雑そうな表情をしていたなあと。

このジャケット、切れたところだけでなく、すでに全体的に縫い糸が切れているんです。
生地はなんともないのですが、糸の方が限界が来たんでしょうね。
ただ、一度に修理するには時間がかかるし、お値段もかかるので、破れた箇所だけにして、次に縫い糸が切れたところを直してもらいましょうか、という話をしていたんです。

今思えば、全部やってもらえばよかったかも。

それから約一月がたちました。

修理屋さんがフライトジャケットが出来たと、持ってきてくれたんです。
みると、どこを修理したの?というくらいとてもきれいな仕上がり。
反対側を見ても、やはり修理屋さんが直した方がきれいです。

いつ見ても惚れ惚れする仕上がり。

しかし、修理屋さんの顔がすぐれません。
すると不意にこうおっしゃるんです。

このジャケット、今回で勘弁してください。

お話を聞くと、このジャケットの修理、いざやってみると相当苦労したんだそうです。
頑丈に作ってある分、裏地を解いても小さい部分しか解けず、その小さい穴から何とかして表地を縫ったんだとか。
縫い方も独特で、簡単ではなかったそうなんですね。
同じ色の糸も揃えなければならなかったし。

時間がかかったのは、ほうっておいたのではなく、手間がかかりすぎた、という事なんです。

うちの修理屋さんが根を上げるほど大変だったこの修理、他の修理屋さんだったらどうなっていたかと思うとちょっとぞっとします。

あきらめて返品されるかもしれないし、適当に縫い付けられるかもしれない。
修理屋さんの中にはちょっとした研修で営業をしているところも珍しくないんですね。
もし、そういうところにお願いしていたら、こんなきれいに仕上がってこなかったでしょう。

お客様に電話。
早速とりに着ていただいて、現物を見ていただきます。
仕上がりに大満足。
喜んでいただけました。

外人さんに託されたフライトジャケット、きれいに着ると約束をしていたので、なんとしても修理して、長く着用したかったんだと思います。
これで、当分の間着用できますね。

修理屋さんの苦労を伝え、次は受けられないかもと伝えます。
お客様、それを聞いて、そこまでがんばってくれたんだとさらに感激していたようです。
いま、そこまでやってくれる人いないですからねえ。

特殊な縁からお客様に渡ったフライトジャケット。
たまたま営業をしていた当店に、何の気なしにふらっと立ち寄って相談し、当店がお願いしている生粋の職人さんの手にわたり、見事に再生。
言葉にするとピンと来ないんですが、よく考えると奇跡だなあと思うんですよ。

だって、修理屋さんなんてほかに沢山あるし、ましてやクリーニング屋さんも沢山あります。
看板掲げているところも最近は多いですし、派手にきれいなお店の方が入りやすいのも事実。
その中で、たまたま通りかかって、やっていたうちへ入って着た事。
うちも、修理屋さんにお願いするなら一流の人と、探して探して見つけた人なんです。
その方も高齢で、昨年は急激にお痩せになられ、一時とても心配していたんです。
何かあったらもううちでは修理は受けることが出来ないかも、なんて考えていたくらい。

でも、うちみたいな修理屋さんを抱えているところは少ないんですね。
ですから、クリーニング屋さんに修理お願いしても適当に縫われちゃうんじゃない?と思う人も沢山いると思うんです。
実際、このお客様もお友達にそういわれたんだそうですし。

そう思うと、すべてが揃って直ったのかなあと思うんですね。

たまたまなのかもしれないけど、直るべくして直ったジャケット。
きっと長く着続けてくれると思います。

投稿者 boribori : 2008年12月12日 23:04

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